下町の家づくりストーリー 第3話:施工
不可能に見えた工事を支えた
職人たちの現場力。
施工管理 永野 兼三
永野 兼三
図面ではわからなかった、築50年の現実。
解体が終わり、骨組みが姿を現したとき、この工事が、一筋縄ではいかないことを改めて実感しました。西側の木組みは、柱や梁の大きさがバラバラで、部材も極端に少ない。本来あるべき基礎が存在せず、コンクリートブロックの上に柱が載っているだけの場所もありました。中には、土の上に直接木材が置かれている箇所さえあったのです。二階の床を支える梁には丸太も混ざっていました。一方で、東側にはしっかりとしたコンクリート基礎があり、柱も整然と組まれています。同じ一棟の建物でありながら、構造が大きく異なっていました。
コンプリートブロックに柱が乗っているだけの箇所
二階の床を支える丸太の梁
この複雑で歪んだ骨組みを前に、まず必要だと感じたのは、建物の状態を正確に把握することでした。そこで私は、現場を一から実測し、基礎から屋根までの構造を可能な限り図面化することにしました。
見えない部分にこそ、手をかける。
建物の状態を把握した後、現場では設計図を形にするための方法を一つひとつ検討していきました。特に難しかったのが、基礎の補強です。解体してみると、西側には本来あるべき基礎が存在していませんでした。そのままでは、これから計画している耐震補強や断熱改修を支えることができません。そこで職人さんたちと何度も施工方法を検討。建物を一時的に持ち上げたうえで新たな基礎を施工し、既存の基礎と一体となるベタ基礎へと改修しました。
仮設構造で一時的に持ち上げた建物
新たなベタ基礎へと改修
さらに、現場では補強金物の取り付けや新しい構造材の追加を進めていきます。小台の家では、大きな吹抜けを設ける計画になっていました。開放的な空間を実現しながら耐震性能を確保するためには、図面通りに施工するだけではなく、現場の状況を確認しながら細かな調整を重ねる必要がありました。
構造部の各所に取り付けた補強金物
新たな構造材を追加し、建物を補強
職人の執念が生んだ、ハガキ半分の隙間。
今回の工事で最も苦労したのは、「気密」です。断熱材を施工するだけでは、高断熱住宅は完成しません。その性能を100%発揮するためには、家の隙間を極限までなくす必要があります。
まず、長年の間に歪んでしまった柱や梁を、大工さんたちが一本一本調整しながら、本来あるべき位置へと戻していきます。その後、断熱材を隙間なく施工し、柱の隙間、サッシの周囲、配線の貫通部分など、考えられるすべての隙間にコーキングやウレタンを充填していきました。地道な作業の連続に、ベテランの大工さんからも「まだ隙間を埋めるのか」と冗談交じりの声が上がるほどでした。それでも、この工程だけは妥協するわけにはいきませんでした。
壁・天井全面に隙間なく施工した断熱材
隙間に発泡ウレタンを充填し、気密性を確保
そして迎えた気密測定の日。現場にいた全員が見守る中、測定器が示した数値は、家全体の隙間を集めてもわずか10cm角。ハガキ半分程度しか隙間がないという、リフォーム住宅としては極めて高い気密性能を実現することができました。測定結果を確認したとき、現場にいた職人さんたちもほっとした表情を見せていました。地道な作業の積み重ねが、数字として証明された瞬間でした。
細部まで隙間なく充填された発泡ウレタン
気密測定を行い、建物全体の隙間の量を確認
真冬の現場で確信したこと。
断熱・気密工事が完了したのは、一年で最も寒い時期でした。まだ暖房設備も動いておらず、職人さんが頻繁に出入りしている状態です。それにもかかわらず、現場に入った職人さんが口々に言いました。「この現場、外より暖かくないか?」実際に計測してみると、暖房を使っていないにもかかわらず、室内は外気より5℃以上高い状態を保っていました。私はそのとき、断熱等級7の住まいが持つ性能の高さを、現場で初めて実感しました。
もうひとつ、施工管理者として私が大切にしていたのが、ご近所との関係です。狭い路地の最奥で行う長期間の工事ですから、近隣の皆さまには少なからずご迷惑をおかけします。毎日の挨拶を欠かさず、工事内容や進捗もできるだけ丁寧にお伝えするよう心がけました。工事が進むにつれて、「完成を楽しみにしているよ」と声をかけていただくことも増えていきました。そしてプレオープン当日には、多くの地域の方々が足を運んでくださいました。地域の方々に見守られながら完成した住まい。それもまた、小台の家の大切な価値だと思っています。
リノベーション完成後の外観
玄関に設置したサインプレート
小台の家は、大工、基礎業者、設備業者、電気業者をはじめ、多くの職人さんたちが知恵を出し合い、難しい課題をひとつずつ乗り越えながら完成した住まいです。現場では、図面通りにいかないことも少なくありません。そのたびに職人さんと相談し、最善の方法を考えながら工事を進めてきました。
完成すると見えなくなる部分にこそ、職人さんの技術と想いが詰まっています。モデルハウスをご見学いただく際には、ぜひ空間やデザインに加え、その裏側にある現場の仕事にも思いを巡らせていただければと思います。この住まいが、下町の古い家にもまだ大きな可能性があることを示す一つのモデルになれば、現場を預かった者としてこれほど嬉しいことはありません。
再建築不可物件をリノベーション
モデルハウス「小台の家」
築50年の再建築不可住宅を、断熱等級7、新築同等レベルの耐震性能を備えた住まいへ。安全で快適な住まいへ再生しました。再建築不可住宅でも、ここまで生まれ変われます。ぜひ、その目でお確かめください。
モデルハウスで体感できます。
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